ビタミンDと心血管疾患 – solar-d

2024/07/29

カテゴリー:STUDY

ビタミンDと心血管疾患

ここでは、ビタミンD欠乏が心血管疾患(CVD)リスクに及ぼす影響をメンデルランダム化解析で分析した研究をご紹介します。

メンデルランダム化法とは、遺伝⼦多型に基づいて定義された個体群の疾患リスクを比較し、因果関係を推論する疫学的手法です。従来の疫学的解析のように、ある曝露のレベルが高い個体と低い個体とを比較するのではなく、曝露のレベルが高くなりやすい遺伝子多型を持つ個体と低くなりやすい遺伝子多型を持つ個体とを比較するアプローチです。

下記の研究で用いられている非線型メンデルランダム化法は、標準的なメンデルランダム化法を拡張したもので、まず曝露レベルに基づいて母集団を層別化し、次に各層で別々のメンデルランダム化解析を行います。

【方法】

血清25-ヒドロキシビタミンD[25(OH)D]濃度とCVDリスクとの関連を調べるため、UK BiobankのCVD症例44,519例と対照251,269例を対象に非線型メンデルランダム化解析を行った。CVDを主要評価項目、血圧と心臓画像に由来する表現型を副次評価項目とした。血清25(OH)D濃度は、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で同定された35の有意な遺伝子多型を用いて計測した。また、低ビタミンD状態の補正に起因するCVD発症の潜在的減少を推定した。

【結果】

遺伝学的に予測された血清25(OH)D濃度とCVDリスクとの間にはL字型の関連があり(pnon-linear=0.007)、CVDリスクは濃度の上昇とともに最初は急峻に低下し、50 nmol/L(20 ng/mL)付近で横ばいとなった。収縮期血圧(pnon-linear=0.03)と拡張期血圧(pnon-linear=0.07)にも同様の関連がみられた。心臓画像の表現型については関連性の証拠は認められなかった(すべてについてp=0.05)。50 nmol/L(20 ng/mL)以下の血清25(OH)D値を補正すると、CVD発症率が4.4%低下すると予測された(95% CI 1.8~7.3%)。結論として、ビタミンD欠乏はCVDのリスクを増加させる。低ビタミンD状態を集団全体で是正することにより、CVDの負担を軽減できる可能性がある。

活性型ビタミンDの生成と作用にそれぞれ関与する1-a-水酸化酵素とビタミンD受容体がともに心臓血管組織で活発に発現、機能し、ビタミンDの枯渇が心筋細胞、内皮細胞、血管平滑筋細胞の機能や挙動に悪影響を及ぼす可能性が示唆されるなど、ビタミンD欠乏とCVDリスクとの関連を裏付ける証拠は蓄積されつつあります。

論文情報

Non-linear Mendelian randomization analyses support a role for vitamin D deficiency in cardiovascular disease risk

掲載誌:Eur Heart J. 2022 May 7;43(18):1731-1739.

掲載日:2021年12月5日

DOI:10.1093/eurheartj/ehab809